2010年09月04日

3冊の本

8月が終わり、新宿ベルクでのラツコビッチ展も1ヶ月の幕を閉じました。
スタッフの方たちのきびきびと立ち働く活気と、途切れることなく訪れるお客様の飲食する幸福な時間の中で、異国のラツコビッチ氏の作品は静かに生き生きと息づいていた気がします。

一昨日は搬入時と同じように朝5時過ぎに家を出て、6時前から作品の撤収を始めました。
1ヶ月前も早朝から汗が流れるような暑い日でしたが、9月に入った朝も街は前日の熱を溜め込んだままでした。


ラツコビッチ展が3分の2を過ぎた頃、今展覧会の後援をいただいたクロアチア共和国大使館のドラゴ・シュタンブク大使がベルクに来店されました。店内の作品を眺め、写真を撮られ、ベルクのスタッフやお客さまにも声をかけ、2度目の上京中のラツコビッチ・アート・ジャパンのYさんとクロアチア語で、また英語も交えおおいにお話をされて帰られました。大使は詩人でもいらっしゃると聞いていましたが、日本でも昨年思潮社から『黒い波 ドラゴ・シュタンブク詩集』が翻訳・出版されていることを後で知りました。
ラツコビッチ氏はクロアチア独立後、大統領に招聘され国会議員としての仕事もされましたが、ドラゴ・シュタンブク氏もまたクロアチアが独立を宣言した1991年に、医師として仕事をされていたロンドンからクロアチアに戻り外交官になられたそうです。

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大使が見えた日は、『新宿駅最後の小さなお店ベルク』に続く2冊目のベルクの本『食の職』が全国で発売開始された日でした。「小さなお店ベルクの発想」と副題がついたこの本は、ベルクスタッフと食材を提供する職人さんたちのこだわりが、どんなふうに今日のベルクの味を作り上げてきたかをとても具体的に紹介しています。
著者の副店長迫川さんの文章は、活気のあるベルクそのままにテンポよく進みます。3人の職人さんたちとの対談もとても読み応えがあります。仕事を通じて信頼できる人たちに出会えることが、いかに幸せかが伝わってきます。
この中で紹介されているソーセージ職人の河野さんのハムやソーセージを、私たち家族は20年前我孫子にあった自給村カンパニーという心意気のある小さな会社を通じて購入していました。娘はこのソーセージで育ったようなものです。
何年も前に会社はなくなり、私たちの食卓にもう河野さんの美味しいソーセージが並ぶことはなくなりましたが、ある日ベルクで感動の再会をしたのです。懐かしいソーセージやアイスピックを買って、家に持ち帰ったのは言うまでもありません。
これは<ベルクの本>ですが<本のベルク>と言っていいほど、ベルクがみっちり詰まっています。まっとうな仕事を続けることの中に、希望や喜びがあることをこの本は教えてくれます。

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3冊目の本はラツコビッチ氏の大きな画集です。
この作品集が私の中に氏の作品の持つ力を強く印象付けました。
殺戮の悲惨、抑制された隠喩としての抗議、ユーモアとエロス、穏やかな風景、静謐な祈り、それらがシンプルな線によって描き出されています。
これらの作品を実際に見てみたい、そしてほかの人ともその経験を共有したい、この作品集を見たときからその控えめな思いは今も変わらずに続いています。

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今この画集は、私の郷里にある樹下美術館に置いていただいています。

ベルクの店内とホームページでまだ営業継続を求める署名運動が続いているように、ビルオーナーとの契約の問題はまだ解決したわけではありません。
詳細は→ http://norakaba.exblog.jp/7982510/
今回の展示もベルクの存続を祈りながらの準備でしたが、改めてベルクの存続を願っています。

posted by norno at 01:09|