2013年10月19日

第五福竜丸と小さな歌の会

先週末、江東区夢の島公園にある第五福竜丸展示館で、友人飯原道代さんの小さな歌の会がありました。
第五福竜丸は、1954年3月太平洋マーシャル諸島にあるビキニ環礁で操業中に、アメリカが行った水爆実験によって被爆した焼津のマグロ漁船です。船には23人の乗組員が乗っていました。第五福竜丸は、その後除染を経て船として使用され続けましたが、老朽化した後は埋め立て地に打ち捨てられていました。1976年展示館が建設され、展示・保存されることになりました。
全長30メートル、高さ15メートルの見上げるような木造船は、圧倒的な存在感があります。
この特別な空間で、飯原さんはいずれも心に残る歌と朗読のための詩を選びました。
とりわけ8人の出演者が声を併せた林光さんの合唱曲「なぜ?(生命の木、空へより)」は、歌に託された思いと歌う人の思いが聴く人に迫力を持って伝わり、胸にこみあげてくるものがありました。目頭を押さえている方たちもありました。
この歌は、広島・長崎の被爆者の遺品の中にあった溶けた一升瓶から、在日韓国・朝鮮人の人たちを思い作られた歌ですが、被爆した第五福竜丸の乗組員の人たち、福島の原発事故で故郷を離れざるを得なかった人たち、今でも放射能に曝されながら汚染水の処理をしている人たちが重なってきます。
なぜ?は怒りです。
私たちは起こったことを、こうして忘れないようにしなければいけないのだと思います。

「なぜ?」

 溶けてよじれた一升びん
 あなたたちの 束の間の宴のあと
 とっくに底をついた
 このクニの台所
 やっと手にいれた酒くみかわし
 あなたたちは何を語りあったのか
 禁じられた母のコトバを
 きょうばかりは思いきり話したか
 むりやり捨てさせられたナマエで
 たがいに呼びあったのか
 うばわれたクニを思い
 クニをとりもどす日を夢みたか

 その日は<光よみがえる祭り>
 タイコとどろきカネがひびき
 白い服が蝶のように
 街を村を舞い踊る・・・・・

 十日ののちにやってくる その日をまたず
 あなたたちは
 べつのおそろしい光に
 灼かれた

 クニとナマエとコトバをとりもどした
 あなたたちの兄弟は
 だが このクニで まだ
 ほんとうの安らぎを得てはいない

 溶けてよじれた一升びんは
 わたしたちにうったえる
 溶けてよじれた一升びんは
 わたしたちをといつめる

 なぜ?
 

<プログラム>
絵本「ここが家だ-ベン・シャーンの第五福竜丸」(絵:ベン・シャーン/構成・文:アーサー・ビナード)朗読
「海に沈んだ巨人の歌」(詞・曲:愛染恭介)
「四又の百合」(宮沢賢治)朗読
「月の船の歌」万葉集より(曲:林光)
「銀河の底でうたわれた愛の歌」(詞:廣渡常敏/曲:林光)
「生命の木、空へ」より「なぜ?」(詞・曲:林光)
「この失敗にもかかわらず」(詩:茨木のり子)朗読
「なぜ」(詩:川崎洋)朗読
「問い」(詩:茨木のり子)朗読
「灰の街」(詞・曲:愛染恭介)
「空に小鳥がいなくなった日」(詞:谷川俊太郎/曲:林光)
「いつも 何度でも」(詞:覚和歌子/曲:木村弓)

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第五福竜丸の舳先の下がコンサート会場。

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階段を上っていくとここがようやく甲板の位置。
コンサートが終わった後、飯原さんと愛染さんが2曲歌ってくれました。

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去りがたいお客さまと出演者の話は続いていました。
船底の中央に垂直にあるのは、木でできた舵。

コンサートの間、時折り聞こえていたごうごうという音。外に出てみると風が大きな木を揺らし、見上げた空には雲間に眩しい月がありました。

第五福竜丸展示館 Official Site
http://d5f.org/

第五福竜丸展示館 Facebook
https://www.facebook.com/d5f.master

posted by norno at 00:30| 音楽

2013年05月09日

ライブ

ずいぶん前のこと、夜中のテレビからびっくりするような音が聴こえてきたので、一体何だろうと見ると、北極圏と思われる荒涼とした風景の中でトランペットを吹く男性がいます。ええ?どうしてこんなにところでトランペットなど吹いているのだろうと再び驚きましたが、抜けるような金管の伸びやかな音は深みと迫力を増し、遥か彼方へと自在に響き渡り、その場に釘付けになってしまいました。自然とのコラボレーションというイメージは少し躊躇させるところがありましたが、この人の演奏をもっと聴いてみたいと思いました。しかしいつでもCDが手に入る状況が、かえってその機会を遠ざけてしまっていました。
ところが連休最後の日、すぐ近くの小さなライブハウスで、そのトランペッターのソロライブがあると知り行って来ました。
演奏が始まると、まぎれもなくあの時テレビで聴いた深々とした群青の色彩的な音が降りてくる瞬間が何度かありました。
私は楽器演奏を聴きながら具体的な情景や風景を思い浮かべるということはほとんどないのですが(自然を描写した音楽は退屈すら感じます)、小さなライブハウスにエフェクターを使用した演奏が響き渡ると、この時ばかりはスケールの大きな荒々しい風景の中にひとりいるような感覚が生まれ、このことを伝える言葉が見つかりませんでした。
演奏家の背後の低い窓には幹線道路の車のライトが左右に疾走し、街の小さな箱の中で十数名の聴衆とともにこれも僥倖というライブの時間を過ごしました。

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CDは2005年にアメリカで制作された『風狂』。近藤等則さんのりりしい侍姿のジャケットにはにかむのは私のほうですが、サインもいただきました。
posted by norno at 12:44| 音楽

2012年05月09日

Musica Laetitia Comes Medicina Dolorum

気の重い帰省が続きます。
以前は片道2時間半あまりの電車の時間を読書に当てていましたが、今は見慣れた車窓の風景を眺めながら音楽を聴きます。
演奏会以外最近まとめて聴くことがなくなったバッハが、移動の友です。
ある時は、フーガの技法 
ある時は、無伴奏チェロ組曲
またあるときは、イギリス組曲
先日は、音楽の捧げものを聴きました。
この時は、山間部の遅い春の夕暮れどき、残雪の中に咲く満開の桜を見ました。

「Musica Laetitia Comes Medicina Dolorum」
「音楽は喜びの友、悲しみの妙薬」

今年届いた年賀状の一枚に書かれていた言葉です。



posted by norno at 16:51| 音楽

2010年03月19日

エフゲニー・ザラフィアンツ ピアノリサイタル

2001年にはじめてエフゲニー・ザラフィアンツさんの演奏を聴いてから、何度か演奏会に足を運んでいますが、先日津田ホールで行なわれたオールショパンの演奏会には、これまで以上に鮮烈な印象を受けました。
美しく際立つ弱音の連なり、厚みのある圧倒的な音の響き、聴きなれた旋律が微妙に揺れて進行するその自在さ、コトりという物理的な鍵盤の打音と紙一重のかそけき音にまで命が宿っていました。

デザインを手がけた氏の新しいCD《ショパン/ノクターン集》も、まもなくリリースされます(リサイタルで先行販売)。
このような演奏家の音楽のパッケージデザインができることを、改めて幸せに思います。
これまでのCDデザインはこちらからご覧になれます。

今回のリサイタルには、遠くからいらした知人とご一緒しました。
思いがけずザラフィアンツさんの音楽を共有できた時間もとても貴重に思えます。


これは、私が演奏会の印刷物デザインの仕事を始めたばかりの頃に作ったザラフィアンツさんのフライヤーです。
60人ほどの小さなホールでの演奏会でしたが、当時から熱心なファンの方がザラフィアンツさんの活動を支えていました。
自分自身の仕事を振りかえる意味でも、懐かしく感慨深いフライヤーです。

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posted by norno at 18:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽

2008年12月22日

第九を聴く

第九を聴いてきました。
全曲生のオーケストラで聴くのは、はじめてです。
指揮は熊谷弘さん、オーケストラはこの演奏会の為に編成されたシンフォニーオーケストラ“グレイトアーティスツ”。
今回はじめて、第九演奏会のチラシ・ポスター・プログラムのデザインをさせていただいたので、この機会に一度演奏会に足を運んでみようと思っていました。
第4楽章の合唱はあまりにも有名ですが、第1楽章、第2楽章、第3楽章がこんなに素晴らしい交響曲だということを、私はこの日はじめて体験しました。
また、開演の合図に現代の作曲家である柳田孝義さんのファンファーレが大学生によって演奏され、皇帝と第九の間の休憩時間には即興演奏家の寛いだ演奏がありました。どちらも演奏会を彩る印象に残る演出でした。
五千人収容できる国際フォーラムホールAの客席は、お客さまでほぼ埋まっているように見えました。この季節、多くの第九の演奏会が開かれていると思いますが、1年の締めくくりにこの曲だけは聴きたいという方が、やはり多いのですね。

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プログラム

有楽町・日比谷からの帰りは、たいてい東京駅まで歩きます。
丸の内仲通りのイルミネーション
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posted by norno at 01:30| Comment(1) | TrackBack(0) | 音楽

2007年11月02日

『オーケストラ・プロジェクト2007』

10月31日、東京芸術劇場で開催された『オーケストラ・プロジェクト2007』の演奏を聴きに
行って来ました。オーケストラ・プロジェクトは、オーケストラ作品の創作と発表を目的と
して作曲家が集まり、1979年に第1回が開催され今年で22回目になります。
この日は4人の作曲家のオーケストラ作品が初演されました。

 山内雅弘:風の詩 − オーケストラのための
 藤原嘉文:巡りあう時空〜ピアノとオーケストラのための (ピアノ:蛭多令子)
 宮崎滋:交響秘抄〜天女梁塵II〜 (ソプラノ:片岡 敬)
 柳田孝義:ヴァイオリン協奏曲「リディアの肖像」 (ヴァイオリン:寺沢希美)

4作品はそれぞれに作曲家の方の個性があり、オーケストラの作り出す多彩な表現と緊張感の
あるソリストの演奏は、とても聴きごたえがありました。
2,000席の大ホールは、わずかな空席を残すだけのように見えました。
私が最初に出会った現代音楽は、武満徹氏の『カトレーン』でした。
それ以降20世紀の音楽や同時代の作品をよく聴いた時期がありました。
この日、久しぶりに同時代の作曲家の作品を聴き、こういう機会をまた少しずつ作りたいと
思いました。


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posted by norno at 03:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽