第五福竜丸は、1954年3月太平洋マーシャル諸島にあるビキニ環礁で操業中に、アメリカが行った水爆実験によって被爆した焼津のマグロ漁船です。船には23人の乗組員が乗っていました。第五福竜丸は、その後除染を経て船として使用され続けましたが、老朽化した後は埋め立て地に打ち捨てられていました。1976年展示館が建設され、展示・保存されることになりました。
全長30メートル、高さ15メートルの見上げるような木造船は、圧倒的な存在感があります。
この特別な空間で、飯原さんはいずれも心に残る歌と朗読のための詩を選びました。
とりわけ8人の出演者が声を併せた林光さんの合唱曲「なぜ?(生命の木、空へより)」は、歌に託された思いと歌う人の思いが聴く人に迫力を持って伝わり、胸にこみあげてくるものがありました。目頭を押さえている方たちもありました。
この歌は、広島・長崎の被爆者の遺品の中にあった溶けた一升瓶から、在日韓国・朝鮮人の人たちを思い作られた歌ですが、被爆した第五福竜丸の乗組員の人たち、福島の原発事故で故郷を離れざるを得なかった人たち、今でも放射能に曝されながら汚染水の処理をしている人たちが重なってきます。
なぜ?は怒りです。
私たちは起こったことを、こうして忘れないようにしなければいけないのだと思います。
「なぜ?」
溶けてよじれた一升びん
あなたたちの 束の間の宴のあと
とっくに底をついた
このクニの台所
やっと手にいれた酒くみかわし
あなたたちは何を語りあったのか
禁じられた母のコトバを
きょうばかりは思いきり話したか
むりやり捨てさせられたナマエで
たがいに呼びあったのか
うばわれたクニを思い
クニをとりもどす日を夢みたか
その日は<光よみがえる祭り>
タイコとどろきカネがひびき
白い服が蝶のように
街を村を舞い踊る・・・・・
十日ののちにやってくる その日をまたず
あなたたちは
べつのおそろしい光に
灼かれた
クニとナマエとコトバをとりもどした
あなたたちの兄弟は
だが このクニで まだ
ほんとうの安らぎを得てはいない
溶けてよじれた一升びんは
わたしたちにうったえる
溶けてよじれた一升びんは
わたしたちをといつめる
なぜ?
<プログラム>
絵本「ここが家だ-ベン・シャーンの第五福竜丸」(絵:ベン・シャーン/構成・文:アーサー・ビナード)朗読
「海に沈んだ巨人の歌」(詞・曲:愛染恭介)
「四又の百合」(宮沢賢治)朗読
「月の船の歌」万葉集より(曲:林光)
「銀河の底でうたわれた愛の歌」(詞:廣渡常敏/曲:林光)
「生命の木、空へ」より「なぜ?」(詞・曲:林光)
「この失敗にもかかわらず」(詩:茨木のり子)朗読
「なぜ」(詩:川崎洋)朗読
「問い」(詩:茨木のり子)朗読
「灰の街」(詞・曲:愛染恭介)
「空に小鳥がいなくなった日」(詞:谷川俊太郎/曲:林光)
「いつも 何度でも」(詞:覚和歌子/曲:木村弓)

第五福竜丸の舳先の下がコンサート会場。


階段を上っていくとここがようやく甲板の位置。
コンサートが終わった後、飯原さんと愛染さんが2曲歌ってくれました。

去りがたいお客さまと出演者の話は続いていました。
船底の中央に垂直にあるのは、木でできた舵。
コンサートの間、時折り聞こえていたごうごうという音。外に出てみると風が大きな木を揺らし、見上げた空には雲間に眩しい月がありました。
第五福竜丸展示館 Official Site
http://d5f.org/
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